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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)1119号 判決 1985年10月29日

原告

山下眞弓

被告

木村春夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一六万三八五〇円及びこれに対する昭和五八年一一月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年一一月二〇日午後六時一五分頃

(二) 場所 大阪市西淀川区出来島一丁目先路上(以下「本件道路」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(京五七る八二八四号)

右運転者 新庄昇

(四)被害者 原告

(五) 態様 原告が運転する普通乗用自動車に加害車が追突し、原告が負傷したもの

2  責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

右前胸部挫傷、右上腕部挫傷、頸椎捻挫等

(2) 治療経過

入院

昭和五八年一一月二五日から同年一二月九日まで福井整形外科

通院

昭和五八年一一月二〇日から同月二一日まで近藤病院

昭和五八年一二月一〇日から昭和五九年一月九日まで福井整形外科

昭和五九年一月一〇日から同年二月一九日まで幸会第一診療所

(二) 入院雑費

入院中一日約一〇〇〇円の割合による一五日分の一万五〇〇〇円

(三) 休業損害

原告は、事故当事一か月平均六〇万円の収入(一日当たり二万円となる。)を得ていたが、本件事故により、昭和五八年一一月二一日から昭和五九年二月一五日まで八七日間休業を余儀なくされ、その間一七四万円の収入を失つた。

(四) 慰藉料 四五万円

4  損害の填補

原告は自賠責保険金一〇四万一一五〇円の支払を受けた。

5  よつて、原告は被告に対し、損害賠償金一一六万三八五〇円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五八年一一月二〇日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1は不知。

2  同2は否認し、争う。

加害車は、被告の長女木村千春(以下「千春」という。)が、昭和五七年一一月、中古車販売会社から購入するに当たり、被告を名義上の買主として自動車割賦販売契約を締結したにすぎず、右代金は、全て千春が支払つている。被告は、自動車運転免許は全く取得しておらず、右購入後、加害車は、専ら千春が運転使用していた。千春は、和田安弘の求めで加害車を貸与したところ、さらに転々として、新庄が運転使用中、本件事故を惹起したものである。

右のとおりであるから、被告は、加害車を自己のために運行の用に供していたものではない。

3  同3及び4はいずれも不知。

4  同5は争う。

第一証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

原告本人尋問の結果並びにいずれもこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証及び第四号証の一によれば請求原因1の事実が認められる。

二  責任原因

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証及び第三号証によれば、被告は、加害車の使用名義人であり、また、同車についての自動車損害賠償責任保険の保険契約者でもあることが認められる。

しかしながら、前掲甲第二号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一号証、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

千春は、被告の長女であり、同女は、昭和四四年ころ、結婚して一旦被告方を出たが、その後離婚して、被告方に戻り、昭和五七年一一月ころは、クラブホステスとして稼働していた。千春は、そのころ、加害車を中古車販売業者から割賦販売契約で購入することにして、そのため、被告に買主等としての名義を貸与するように求めた。被告は、当時、土木作業員をしていて、全く自動車運転免許を受けたことはなかつたが、千春の右依頼を承諾した。なお、右加害車購入の手続、購入代金及び登録費用等の支払は全て千春が行なつた。そして、右購入後も千春のみが加害車を使用していたが、千春は、右購入の約一か月後からは、被告方に戻らない日も多くなり、昭和五八年六月ころには京都市内に完全に転居してしまい、結局被告は、加害車に乗車したこともなく、もちろんガソリン代等の費用を負担したこともなかつた。ところが、千春は、昭和五八年七月ころ、知人の和田安弘に短期間の約束で加害車を貸与したところ、その後加害車は和田から伊丹某を経て新庄昇の借受けるところとなつたものである。

以上の事実関係によれば、被告は、本件事故当時加害車の運行を支配し、その利益を得ていたものとはいえないから、本件事故に関し、自賠法三条所定の運行供用者としての責任を認めることはできない。

従つて、その余について判断するまでもなく、原告の被告に対する請求は失当である。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

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